―わたし好みの新刊― 
  
                       200907

『日本の川 ちくごがわ』   村松昭さく   偕成社   
 〈鳥瞰絵図〉という作法で,空からながめた独特の絵を描き
続けている村松昭さんの『たまがわ』に次ぐ,「日本の川」シ
リーズの第
2作目である。河口から源流まで連続した鳥瞰絵図
となっている。

 今回の舞台は,主に大分県,福岡県をまたいで流れる筑後川
である。奥深い火山の里,九重連山を源流として,筑紫平野を
流れ下り有明海に注ぐ延長
143kmの河川である。この水量豊かな
河川を,くまなく利用してきた人間の知恵と工夫の跡が描かれ
ている。
 はじめは下流の筑紫平野を流れる筑後川が描かれている。こ
の河川流域の特徴は,なんといっても水路利用の多さだ。縦横
に水路がはりめぐらされている。〈柳川の掘割〉の復活は河川
を見直す原点としてうれしい場所だ。久留米市周辺では,かつ
ての蛇行河川の様子がよく見える。暴れる河川と闘う人々の苦
労がしのばれる。高台には〈吉野ヶ里遺跡〉が見える。だんだ
んと上流部に行くと,豊かな田園や耕作地が広がっている。川
に沿って用水路が並ぶ。用水路より高く位置する田んぼに水く
み上げる〈三連水車〉が登場する。水車の両脇に水溜めを取り
付けて水をくみ上げるといううまい仕組みになっている。だれ
が考えたのだろうか。やがて河川は山間の場面に変わっていく。
ダムや発電施設が目立ってくる。温泉地や渓谷が垣間見える。
苦い洪水の記録も描かれているが,ダム建設は多くの人々の犠
牲の上に成り立っていることを改めて知らされる。やがて源流
へとたどりつく。火の国,九重火山の合間からが水がしみ出し
てくる。楽しい旅物語である。

                            20095月 1,400

                              
砂糖のちから 』  足立香代子監修   素朴社
 毎日の食事やおやつに欠かせない「砂糖」について,多方面の
知識が総合されて書かれている。文章はやや解説的で読みづらい
こともあるが,「砂糖」に関する興味ある話題がたくさん並ぶ。
最初は,「砂糖の甘さのひみつ」や「砂糖の原料」の話が続く。
「さとうきびから砂糖ができるまで」も興味深い。〈白い砂糖〉
にするためには,石灰や二酸化炭素も役に立っている。「砂糖の
種類」もこんなにあったのかと認識を新たにさせられる。「砂糖
づくりはいつごろから始まったか」など,歴史的な話題も興味深
い。砂糖の原産地は,南太平洋のニューギニアとある。最初は
「薬」として伝わったとか。元気の素ということで「薬」に見立
てられたのだろう。また,サトウキビから砂糖を精製する技術を
生み出したのはインドとか。当時は「インドの塩」として,ヨー
ロッパに伝えられていたとか。その後,サトウキビ栽培はヨーロ
ッパや中国に伝わり,やがて,日本にも伝えられるようになった。
日本での砂糖伝来と普及の歴史も興味深い。

 後半は,砂糖のいろいろな役目が書かれている。砂糖は,〈甘
さ〉以外にさまざまな役目を持っている。まず,砂糖の親水性が
いろんな食生活を豊かにしていることが紹介されている。砂糖の
料理手助け能力もすごい。ふだんあまり気づかれていない砂糖の
効能である。最後に「わたしたちの体と砂糖」など,砂糖摂取に
関する話題が書かれている。砂糖の性質を正しく理解し,砂糖と
うまくつきあうノウハウも書かれている。砂糖に関する実用書で
もある。              
            
20095月刊 1,800円 (西村寿雄)                                                                                                     
                   
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